ヒーローマニア 生活

福満しげゆき氏の漫画が好きだった豊島監督と
プロデューサーたちが出会って、映画化が実現

もともと福満しげゆき氏の大ファンだったという豊島監督。福満さん原作の「生活」をオフビートなアクション映画に仕立てたいというのが、脚本家・継田氏との野望だった。2010年『キック・アス』の公開を受け、石田プロデューサーがその野望に乗った。同じ頃、『ゴールデンスランバー』のような日常のなかでアクションが繰り広げられていく話を撮りたいと原作を探していた吉田プロデューサーは、漫画「生活」に可能性を感じていた。そうして、福満しげゆき氏の「生活」を原作に豊島圭介監督でヒーロー映画を撮ることが動き出した。

豊島監督は「これはグダグダになった日本を舞台にしたエンターテイメントだ」と言う。原作に描かれている世界は、まさに「生態系の破壊された」混沌とした現代社会そのもの。そのなかで、ヘタレた小市民が立ち上がって少しだけ成長する。そんな姿を「作り手も観客も手放しで喜べるエンターテイメントに仕立て上げる」──それを共通言語に制作は進んでいった。


若手注目株からベテラン俳優まで文句ナシの完璧なキャスティングが実現した

2011年に漫画「生活」を映画化する企画が本格的に動き出すが、脚本が形になるまでには思いのほか時間がかかった。幾度の改稿を経て、納得のいく脚本ができたのは企画スタートから3年後の2014年。そこからキャスティングに入っていく。主演の東出昌大を筆頭に、窪田正孝、小松菜奈、片岡鶴太郎、船越英一郎、しずちゃん(南海キャンディーズ)──新旧実力派が揃っているが、全員が第一候補というベストキャスティングとなり、全員が『ヒーローマニア-生活-』の世界観に惚れて引き受けている。相思相愛というのもある意味、奇跡と言えるだろう。

【中津/東出昌大】

過去にWOWOWの「CLAMPドラマ ホリック xxxHOLiC」で東出と仕事をしていた豊島監督は「東出くんは一見スマートで格好いいけれど、実は意外な側面があるのを垣間見たんです。『天然』といってもいいくらいのトボけた味わい。誰も知らないその東出くんのキャラをどうしても撮りたかった。なかでも一番やりたかったのは、鴨居に頭をぶつけるシーン。あれだけ背が高い人は絶対に普段頭をぶつけているはず。この映画では何度も頭をぶつけてもらっています(笑)」。見たことのない“ヘタレ”東出の誕生だ。本人も今までにないキャラクターを楽しんでいたようで、走り方も居方も、細部にわたってヘタレ感を出すための研究をして撮影に臨んでいる。なかでも監督のお気に入りは、鍋からそのままラーメンとか、手づかみで刺身とか食べてしまうヘタレ感のある食事のシーンや、あれだけ高身長なのにオジサン(片岡鶴太郎)にカナヅチ・アッパーをくらうシーン。しかし、役としてはヘタレだが俳優・東出昌大としては主役としてつねに現場を盛り上げ、スタッフ&キャストみんなが彼のファンになっていった。また、豊島監督の作品には『森山中教習所』の野村周平をはじめ、“白目”キャラクターがよく登場する。というわけで、東出もコンビニのシーンで素晴らしい白目を披露。「ベスト・オブ・白目です(笑)」と、監督も大満足だった。

【土志田/窪田正孝】

土志田役の窪田も新しい一面を見せている。豊島監督との仕事は『古代少女ドグちゃん』以来で、「その後もずっと一緒に仕事をするチャンスを狙っていた」と話す。窪田が今回演じるのは謎の身体能力を誇るニートで、しかも下着泥棒。「盗んできたパンティーを顔に当ててクンクン匂いを嗅ぐのは、窪田くんのアドリブなんですよ(笑)。すごくいいですよね! 引きこもりで下着泥棒役の窪田正孝は二度と見られないんじゃないかな」と、監督は嬉しそうに語る。土志田役に窪田が選ばれた理由は、アクションのできる俳優であることも大きい。「噂には聞いていたけれど、窪田くんのアクションは想像を越えて凄かった! キレまくりだった」と、誰もがその華麗な動きを絶賛する。この映画のアクションはスタントチーム「Gocoo」の森崎えいじ氏が担当。吉田プロデューサーいわく「殺陣師が2〜3度お手本を見せるだけで、窪田くんはそれ以上のことをやってみせるんです。アクションシーンはカットで割っているように見えるけれど、実は一連で撮影しています。窪田くんが東出くんを飛び越えて船越さんに躍りかかるシーン、あれは動きが複雑で当初は細かくカットを割って撮影する予定でしたが、窪田くんはそれを一連でやってしまった。本当にすごい」

【カオリ/小松菜奈】

モデルとして活躍する小松菜奈を女優として一躍有名にさせたのは中島哲也監督の『渇き。』だ。その後も『近キョリ恋愛』や『バクマン。』に出演。「小松菜奈は、モデルとしても女優としても素晴らしい。映画のなかであれだけ活き活きして輝けるのはすごい。“持ってる人”です」と、豊島監督も彼女の大きな魅力に惹き寄せられたひとりではあるが、やはり小松に関しても意外性を求め、これまでとは違う側面を引き出している。「僕はもともと、すごく美しい女の子に変なことをさせるのtが好きなんです(笑)。今回は小松菜奈がそれを叶えてくれました。三つ編みおさげに丸めがねもそうですし、『ママのおっぱいでも吸ってろ』とか、下品なセリフも何のためらいもなく言ってくれました。ラストのポーズも秀逸でした(笑)。ああいうキャラと演技はなかなかできないもの。すごい女優です」。それをやってのけてしまうのは、小松自身が面白いことが好きな女の子だということもある。「あんなに人を笑わせるのが好きな人だとは思わなかったですね。一挙手一投足が面白い。心配なのは、彼女の面白さに気づいた人たちが増えていること。公開の5月まで面白さがほかの作品で露出しないことを祈ります(笑)」。

【日下/片岡鶴太郎】

中津や土志田の仲間でありながらも、どこか父親的存在で彼らを見守るオジサン=日下。正義と狂気の両方を持ち合わせている難しいキャラクターであること、さらにカナヅチを使ったアクションも必要となると、日下役を頼める俳優の選出は難しくなってくる。演技がうまくアクションも吹き替えナシでできる俳優は、ボクサー経験のある名優・片岡鶴太郎以外に考えられなかった。久々のアクション映画の出演となるが、本人は「還暦になってのアクションは非常に嬉しかったです。もちろん、不安もありましたが、楽しみながら撮影に入りました」と語っている。両手の袖からシュッとカナヅチを出してクルクル回しながら相手を倒していくアクションは、コミカルなのにめちゃくちゃ格好いい。「カナヅチを使ったアクション映画はすでにあるけれど、あんなにふざけたアクションは世界で初めてだと思う」と、豊島監督のお気に入りでもある。また、片岡鶴太郎は劇中で使用するカナヅチを持ち帰り、クランクイン前に自宅でカナヅチの扱い方、アクションの仕方を練習して撮影に臨んでいる。

【宇野/船越英一郎】

東出、窪田、小松、片岡のメインキャラクターだけでなく、その脇を固める俳優たちも個性派が揃っている。ホームレスから自警団を率いる組織のリーダーになる宇野役の船越英一郎もそのひとりだ。「正義漢のイメージが強い船越英一郎の違う一面が見たかった」という豊島監督の期待どおり、異様な存在感で観客を惹きつける悪役を演じてみせた。ちなみに、何度か登場する宇野の握手シーンが印象的に映し出されるが、そこにも大きな意味がある。「悪役に何かクセをつけようと思ったときにふと思ったのが、政治家って何をするんだろう? でした。で、握手だ! と(苦笑)。握手をして、体温を感じて、力を込められて、真正面から目を見られると、自分の心をその相手にふうっと持っていかれるというか。そんな握手を船越さんに演じてもらいました」。

【オバサン/しずちゃん】

オバサン役に関しては「とにかく登場しただけでインパクトのある人、存在感のある人が必要だった」と、しずちゃんに白羽の矢が立った。
「生態系の破壊された混沌とした現代社会」を分かりやすく象徴しているのが、オバサンというキャラクターでもある。


日本映画を牽引する豊島圭介監督が
これまでとは違う日本映画を作り出した、その3つの挑戦

「豊島監督は、いわゆるアーティスティックな監督ではないけれど、作家性を大事にしながら、全体を見て映画を作ることのできる監督。ずっと注目されてきたし、これからますます日本映画界を引っぱっていく存在になるはず」と言うのは吉田プロデューサー。監督は、大学卒業後にロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の監督コースに留学していることもあり「日本の映画監督っぽさがない」とも加える。それは、ものすごく現場のムードを作り、役者やスタッフのテンションをあげるのが上手いということだ。撮影がスタートしてからの2週間は記録的な降雨量、豪雨に見舞われてしまい、ロケは天気との戦いでもあった。けれど、豊島監督のそのムード作りによって、つらいけれど楽しい、本当に雰囲気のいい現場となった。

【挑戦その1 音楽】

映画を観れば一目瞭然だが、この『ヒーローマニア-生活-』の音楽の使い方は「ものすごく贅沢をさせてもらいました」と豊島監督が喜ぶように、ある種のアメリカ映画的な手法をとっている。一人の作曲家に劇伴をすべて任せるのではなく、たくさんのアーチストの様々なバリエーションの曲を適所にはめていく。音楽プロデュースチーム「グランドファンク」の参加がそれを可能にした。日本映画界はポストプロダクション軽視の傾向があるが、今回は音楽と効果・整音に多くを割いた。「映画の仕上げにお金と時間を残していくことの重要性を感じた」と敢えて難関に挑み、その挑戦はもちろん功をなしている。

【挑戦その2 アクション】

冒頭のアクションシーンと同じシーンが後半にも繰り返される。同じ映像であるにもかかわらず、観客に与える印象は180度違う。豊島監督はそれを「トレインスポッティング」(ダニー・ボイル監督)方式だと言う。「音楽が変わり、物語のしかるべき位置に置かれると、同じ映像であっても持つ意味が変わるんです。冒頭のアクションはエンタメで面白いものだけど、後半に繰り返し登場するときは悲壮感が溢れている。要はアクションを通じて、アクロバティックな面白さと痛みのあるドラマと2つやりたかったんです」。その長いアクションは「一番大変だったシーン」であり、また「長年の夢が叶ったシーンでもある」と語る。監督のなかで、ずっとやりたかったこと──それはシャッター商店街を縦横無尽に駈け抜け、戦いを繰り広げるアクションだ。この映画の前にも、企画を出すたびに「シャッター商店街」で「アクション」というキーワードを盛り込んできたが、ようやくそれを実現させる相手(作品)と巡り逢ったというわけだ。

【挑戦その3 美術】

メインロケ地に選ばれたのは、豊島監督の地元・浜松。長年の夢だったシャッター商店街を駈け抜けるアクションも浜松駅前の商店街で撮影している。どこの街にでもある商店街を、日本なのか外国なのか、過去なのか未来なのか、何とも言えない独特な世界観のある“なごみ商店街”として作り上げたのは、美術の花谷氏。シャッター商店街はこの映画のメインでもあり「一点豪華、フィクション度の高い面白い場所にしてほしい」という監督の願いを受け、花谷氏はシャッター商店街をグラフィティで埋め尽くした。面白いのはそのグラフィティに“遊び”や“テーマ”がさり気なく取り入れられていることだ。監督が一番気に入っているグラフィティは、冒頭と後半、2度出てくるあのアクションシーンで映るもの。ナイフで刺されて倒れた土志田に向かって、中津が「としだーーーっ!」と叫ぶ場面。その背景に映し出されているグラフィティをよく見ると──「御釈迦さまとキリストが立ちションしているんですよ(笑)。で、そのおしっこが洪水になって街に流れ込んでいる」。そのほかにも寓意に満ちたグラフィティが溢れていると言う。また、なごみ商店街を含む“堂堂市”の夜の街をサーチライトで照らしているタワーは浜松駅前にあるアクトタワー。


【日下/片岡鶴太郎】

中津や土志田の仲間でありながらも、どこか父親的存在で彼らを見守るオジサン=日下。正義と狂気の両方を持ち合わせている難しいキャラクターであること、さらにカナヅチを使ったアクションも必要となると、日下役を頼める俳優の選出は難しくなってくる。演技がうまくアクションも吹き替えナシでできる俳優は、ボクサー経験のある名優・片岡鶴太郎以外に考えられなかった。久々のアクション映画の出演となるが、本人は「還暦になってのアクションは非常に嬉しかったです。もちろん、不安もありましたが、楽しみながら撮影に入りました」と語っている。両手の袖からシュッとカナヅチを出してクルクル回しながら相手を倒していくアクションは、コミカルなのにめちゃくちゃ格好いい。「カナヅチを使ったアクション映画はすでにあるけれど、あんなにふざけたアクションは世界で初めてだと思う」と、豊島監督のお気に入りでもある。また、片岡鶴太郎は劇中で使用するカナヅチを持ち帰り、クランクイン前に自宅でカナヅチの扱い方、アクションの仕方を練習して撮影に臨んでいる。

【宇野/船越英一郎】

東出、窪田、小松、片岡のメインキャラクターだけでなく、その脇を固める俳優たちも個性派が揃っている。ホームレスから自警団を率いる組織のリーダーになる宇野役の船越英一郎もそのひとりだ。「正義漢のイメージが強い船越英一郎の違う一面が見たかった」という豊島監督の期待どおり、異様な存在感で観客を惹きつける悪役を演じてみせた。ちなみに、何度か登場する宇野の握手シーンが印象的に映し出されるが、そこにも大きな意味がある。「悪役に何かクセをつけようと思ったときにふと思ったのが、政治家って何をするんだろう? でした。で、握手だ! と(苦笑)。握手をして、体温を感じて、力を込められて、真正面から目を見られると、自分の心をその相手にふうっと持っていかれるというか。そんな握手を船越さんに演じてもらいました」。

【オバサン/しずちゃん】

オバサン役に関しては「とにかく登場しただけでインパクトのある人、存在感のある人が必要だった」と、しずちゃんに白羽の矢が立った。
「生態系の破壊された混沌とした現代社会」を分かりやすく象徴しているのが、オバサンというキャラクターでもある。


日本映画を牽引する豊島圭介監督が
これまでとは違う日本映画を作り出した、その3つの挑戦

「豊島監督は、いわゆるアーティスティックな監督ではないけれど、作家性を大事にしながら、全体を見て映画を作ることのできる監督。ずっと注目されてきたし、これからますます日本映画界を引っぱっていく存在になるはず」と言うのは吉田プロデューサー。監督は、大学卒業後にロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の監督コースに留学していることもあり「日本の映画監督っぽさがない」とも加える。それは、ものすごく現場のムードを作り、役者やスタッフのテンションをあげるのが上手いということだ。撮影がスタートしてからの2週間は記録的な降雨量、豪雨に見舞われてしまい、ロケは天気との戦いでもあった。けれど、豊島監督のそのムード作りによって、つらいけれど楽しい、本当に雰囲気のいい現場となった。

【挑戦その1 音楽】

映画を観れば一目瞭然だが、この『ヒーローマニア-生活-』の音楽の使い方は「ものすごく贅沢をさせてもらいました」と豊島監督が喜ぶように、ある種のアメリカ映画的な手法をとっている。一人の作曲家に劇伴をすべて任せるのではなく、たくさんのアーチストの様々なバリエーションの曲を適所にはめていく。音楽プロデュースチーム「グランドファンク」の参加がそれを可能にした。日本映画界はポストプロダクション軽視の傾向があるが、今回は音楽と効果・整音に多くを割いた。「映画の仕上げにお金と時間を残していくことの重要性を感じた」と敢えて難関に挑み、その挑戦はもちろん功をなしている。

【挑戦その2 アクション】

冒頭のアクションシーンと同じシーンが後半にも繰り返される。同じ映像であるにもかかわらず、観客に与える印象は180度違う。豊島監督はそれを「トレインスポッティング」(ダニー・ボイル監督)方式だと言う。「音楽が変わり、物語のしかるべき位置に置かれると、同じ映像であっても持つ意味が変わるんです。冒頭のアクションはエンタメで面白いものだけど、後半に繰り返し登場するときは悲壮感が溢れている。要はアクションを通じて、アクロバティックな面白さと痛みのあるドラマと2つやりたかったんです」。その長いアクションは「一番大変だったシーン」であり、また「長年の夢が叶ったシーンでもある」と語る。監督のなかで、ずっとやりたかったこと──それはシャッター商店街を縦横無尽に駈け抜け、戦いを繰り広げるアクションだ。この映画の前にも、企画を出すたびに「シャッター商店街」で「アクション」というキーワードを盛り込んできたが、ようやくそれを実現させる相手(作品)と巡り逢ったというわけだ。

【挑戦その3 美術】

メインロケ地に選ばれたのは、豊島監督の地元・浜松。長年の夢だったシャッター商店街を駈け抜けるアクションも浜松駅前の商店街で撮影している。どこの街にでもある商店街を、日本なのか外国なのか、過去なのか未来なのか、何とも言えない独特な世界観のある“なごみ商店街”として作り上げたのは、美術の花谷氏。シャッター商店街はこの映画のメインでもあり「一点豪華、フィクション度の高い面白い場所にしてほしい」という監督の願いを受け、花谷氏はシャッター商店街をグラフィティで埋め尽くした。面白いのはそのグラフィティに“遊び”や“テーマ”がさり気なく取り入れられていることだ。監督が一番気に入っているグラフィティは、冒頭と後半、2度出てくるあのアクションシーンで映るもの。ナイフで刺されて倒れた土志田に向かって、中津が「としだーーーっ!」と叫ぶ場面。その背景に映し出されているグラフィティをよく見ると──「御釈迦さまとキリストが立ちションしているんですよ(笑)。で、そのおしっこが洪水になって街に流れ込んでいる」。そのほかにも寓意に満ちたグラフィティが溢れていると言う。また、なごみ商店街を含む“堂堂市”の夜の街をサーチライトで照らしているタワーは浜松駅前にあるアクトタワー。


ヒーローに欠かせないスーツならぬジャージ
参考にしたのはウェス・アンダーソンの世界観

物語の舞台は“堂堂市”という架空の街。その架空の街で起こる事件=フィクションを、どれだけフィクション度を高く見せるかが課題でもあった。先に説明したグラフィティだらけの商店街もそうだが、自警団の制服が黒ではなくピンク色だとか、環境バランスが崩れてしまってヌートリア(カピバラみたいな外来侵入種)が大量発生しているとか、ミュータントのような特別な力を持った人がいるとか……そして中津たちが結成する“吊るし魔”のユニホーム、あのジャージだ。デザインを担当したのは、韓国アイドルグループ「少女時代」の衣装も手掛けている一ツ山佳子氏。豊島監督とは「CLAMPドラマ ホリック xxxHOLiC」でタッグを組んでいる。ジャージのデザインに求められたのは「男らしくて格好いいというよりも、ファニーで可愛いもの」。ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』のような世界観をイメージしたそう。「一ツ山さんの仕事は本当に完璧だ」と監督を感心させたのは、中津、土志田、カオリ、日下、それぞれのデザインが違うことだけでなく、60、70、80、90年代風というように年代別の流行りを入れているこだわり。また、土志田のニット帽が赤色なのも『ライフ・アクアティック』に由来している。


ダメな男が立ち上がるヒーローものが好き
豊島監督にとってのヒーロー映画には自分が反映されている!?

『キック・アス』がそうであったように、『ヒーローマニア -生活-』もまたごく普通の人たちがヒーローになろうとする映画だが、豊島監督がこの映画の準備中に見直したのは、ダメな男が立ち上がっていくヒーロー映画だった。例えば『ロッキー』『ヤングマスター』『スーパー!』……異色なところではクランクイン直前に見た『ベイマックス』のヒーロー観も参考になったと言う。
台本を作っていたときにひな形にしていた映画は『アマデウス』と『ブギーナイツ』。中津と土志田の関係性は『アマデウス』のサリエリとモーツァルト、華々しさのある前半と転落する後半の流れは『ブギーナイツ』の構成を参考にしている。また、監督自身は気づかないうちに主人公に自分自身を投影させていたという。「世の中の理不尽なあれこれを叩き潰したい!という欲望はきっと誰にでもあって、今回のテーマはまさにそこなんですが、問題はそのやり方なんです。僕、小学生の時にケンカした友達がいたんですけど、そいつにサッカーボールをぶつけてくれってサッカー部のやつに頼んだりしてたんです。やってもらえなかったですけど(笑)。
要するに、僕はものすごく卑怯だった。土志田を使って世の中に復讐しようとする、まさに中津です(苦笑)」。


これを知っているともっと面白い! 何度も観たくなる!
『ヒーローマニア -生活-』プチ・トリビア

豊島監督はこの映画を「レイヤーのある作品にしたかった」と語る。「手前の芝居、奥の芝居、さらに奥のセット……『ブレード・ランナー』はいくつものレイヤーのある作品で何度見ても発見があって、もう一回観たいと思わせるんです。『ブレード・ランナー』と比較するのはおこがましいけれど、レイヤーは意識して作っています」。なかでも笑えるレイヤーはヌートリアだろう。大量発生しましたというニュースとしてテレビ画面に登場したり、カルガモのように道路を横断してトラックを止めたりするだけでなく、全編をとおしてどこかに映り込んでいる。カオリが「退職金、いただきましたー」と言って宇野に蹴りを入れるシーンでは、後ろにヌートリアが見え隠れしている。冒頭のコンビニのシーン、中津がバットを振りかざして商品棚のモノが飛び散るシーンでもさりげなくヌートリアが飛んでいて、おまけにブヒッという効果音までも入っている。一瞬だからこそもう一度見たくなる。そういった“遊び”は監督だけが仕掛けているのではなく、監督を理解しているスタッフたちが「こんなの面白いんじゃないか」と提案しているからだ。そんなところからも、豊島組のチームワークの良さが伝わってくる。一体何匹のヌートリアが映り込んでいるのか、ぜひ数えてみてほしい。


話し手:豊島圭介監督、吉田憲一プロデューサー

聞き手:新谷里映

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